傀儡の恋

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 どうやら、自分の願いは一つは叶えられそうだ。近づいてくるフリーダムを見つめながらラウは小さな笑みを漏らす。
 どのような形にしろ、自分という存在は彼の中にしっかりと根を下ろした。
 後は決着をつけるだけだ。
 すべての元凶は自分にある。メンデルで彼にそうに追わせた。
 それをキラは的確に受け止めてくれたはず。
「君は私を見つけてくれるかな?」
 そうすれば、キラは自分の手で全てを終わらせようとするだろう。
 どちらが勝つか。それは運に任せるべきだろう。
「最初から勝敗が決まっていてはつまらないからね」
 自分の命が長くないのはわかっている。そう言う意味では、キラが生き残るべきなのだろう。しかし、それとこれとは別問題だ。
「楽しみだよ、本当に」
 これでようやく全てが終わる。
 少なくとも、この苦しみは終わるだろう。
 後のことは生き残った者達が考えればいい。
「早く、私の前に来るがいい」
 そして、私を止めてみるがいい、とラウは微笑んでいた。

 戦場はすぐに乱戦になった。
 だが、そのような状況でもフリーダムの存在はすぐに見つけることが出来る。
「私はここだよ、キラ」
 まるで恋しい相手を待っているような気持ちのまま、ラウは呟く。
「ギルには『恋する乙女のようだ』と言われたね、そう言えば」
 だが、自分が彼に抱いている感情はそんな単純なものではないと言うことをラウはよく知っていた。
 一番近い言葉は『執着』だろうか。
「てっきりその対象はあの男だと思っていたのだがね」
 どうやらムウは、自分にとってどうでもいい相手だったらしい。
 だが、その方がいい。
 最期まであの男にかかわるのはいやだ。  それよりは自分の感情を揺さぶってくれる相手の方が何千倍もいい。
「最期まで君と楽しみたいからね」
 早くおいで。ささやくようにそう付け加える。
 そんな彼の視線の先で、いくつもの閃光が花開いては消えていく。それが何を意味するのか、わからない訳ではない。しかし、それでもあの光は美しいと感じる。
 その中を縫うように一機のMSが移動していく。
 人の命を奪うものなのに、どうして美しいと思うのか。
 それはきっと、最期に見る者は美しくあって欲しいと考える人間が多いからだろう。もちろん、それは自分の勝手な考えだが。
 だが、命を奪われるのであれば美しい方がいい。
 体の奥底か広がってくる虚無感にラウは思う。
「君との戦いの最後まで保てばいいがね」
 それでも、自分がキラに勝ったとしても喪失感にさいなまされることはない。時を置かずに自分もまた冥府への扉をくぐるはずだ。
 もっとも、と苦笑を浮かべる。
 たどり着く先は天地ほども離れているだろうが。
 そんなことを考えていたときだ。フリーダムがこちらに向かってくるのが見えた。
「ようやくだね」
 自分の願いが叶うか、それとも潰えるか。どちらにしろ、エンドマークがつけられることは事実だ。
「願わくば、私の執着の半分でも君がいだいていてくれると嬉しいね」
 そう告げると、ラウはフリーダムを迎えるためにプロヴィデンスを発進させた。

「それでも、守りたい世界があるんだ!」

 光が自分を包む。
 これで全てが終わる。
 世界を破壊することが出来ただろうか。それとも、自分がしたことは何の意味も持たなかったのか。
 それはわからない。
 ただ、キラがまっすぐに自分へ怒りをぶつけてくれたことは事実だ。そして、彼の中にわずかなりとも自分の爪痕を残せただろうことも、だ。
 それで十分。
 後は生き残った人間ギルバートの役目だろう。
 その思いのまま、ラウは目を閉じた。

 ラウ・ル・クルーゼはこの時、死んだはずだった。

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最遊釈厄伝